さてと、背丈ほどの篠竹が一面を覆い尽くしているこの一反ばかりの元畑を二人で開墾するわけだが、いったい何日かかることやら。
、、、と、H君が「草刈り機使えば三日ぐらいで一応見晴らしはよくなる。でもそのあと根っこを全部掘り返さなきゃ畑にならないから、それにプラス三日〜四日かかると思うから、都合一週間っていうところかな?」と言った。
ん〜、僕にまったく見当がつかないけれど、そんなもんなのかしらね。

初日、H君が「グイーングイーン」と草刈り機を唸らせて端っこからバッサバッサと竹を切り倒して行く。
しばらく倒したところで、僕が竹を集めてネコ(一輪車)に載せ、畑の周りの急斜面になっている雑木林に捨てに行く。
なんだ、竹の束なんかぜんぜん軽いし、こりゃ楽な作業だこと、、、なんて思っていたら大間違い。
何十年かけて鈍り切ったこの身体が、ぜんぜん思うように動かない。
鍬で竹を集めて束にする→しゃがんで胸一杯に抱きかかえる→立ち上がりネコに載せる→斜面まで運び捨てる→戻って再び鍬を使う。
と、この作業のくり返しだけなのだが、なんとも情けないことに、二回これをくり返しただけでもう息が上がってハァハァゼイゼイ。
空になっているネコに座って一休みしながら冷凍バッグからアクエリアスを二口三口。
え〜ダメじゃんか俺、10分動いて10分休みって、なんという効率の悪さ(笑)。
その点H君は疲れ知らず。
僕との作業効率の幅があまりにもあり過ぎて、草集めが追いつかない(笑)。
しばらく観察した結果、H君は45分動いて五〜六分の休みで作業を続けている。
同い年なのにこんなにも体力に差があるのか、僕は愕然とする。

確かにここ四十年ばかり(笑)、まったく身体を使った仕事をして来なかったけれど、これでも若い時は、測量やら地質調査やらボーリング(穴を掘るやつのほう)やら、それはそれはけっこう過酷な肉体労働をしてきたものだ。
この畑仕事をする気になったのも、当時の体験からすれば大したこたねぇだろうと高をくくっていたからなのだが、あにはからんや、数十年という年月は恐ろしい程僕の基礎体力を奪うもので、働く時間と休む時間が同じだなんて、こんなんでアルバイト料もらえたもんじゃないだろうと思い知る。
でも、H君は「いいから無理すんなって、適当にゆっくりやればいいから」と、優しく言ってくれる。
いいヤツだほんとに(笑)。

そうしてお互いに休憩をとる時間がバラバラなのだが、たまに休憩が一致する時もある。
で、アクエリアスを飲む。
「H君、あれだな、俺たちは『アクエリアス飲み百姓』ってことだ(笑)」
「そうだね、『水飲み百姓』じゃなくて(笑)」

そんな感じで野良仕事を三日ばかり続けたが、ん〜、見晴らしが良くなったのは全体のまだ半分にも満たない。
H君自身も自らの体力の衰えを甘くみていたのだろうか、三年のブランクがここに来て効いてきたようだ。
H君がまだ父親と二人で畑仕事をやっていた頃は、H君が休みをとらずにいつまでも作業し続けるので、よく父親が言ったそうだ。
「バカだなお前、野良仕事ってのは先が長いんだから、疲れる前に休みをとるんだよ。疲れてから休んだんじゃ、もう次に動くのやんなっちゃうだろうが」
なるほど、「疲れる前に休む」、こりゃ名言だわ(笑)。

この畑は中央公園の山のてっぺんにあると前述したが、この畑に沿って獣道のような小径があり、意外にも人通りが多い。
特に犬の散歩コースになっているらしく、一日に少なくとも10組以上の人と犬が通る。
トレッキングする人も5組くらいは通る。
それに、幼稚園生たちを引き連れた遠足組や小学生たちの群も、一日1組くらいは通る。
そして、それらの全ての人たちが農作業している僕たちに声を掛ける。
ほんとに、声かけられ率100%と言っても過言ではないのだ。
だいたい皆さん言うことは一緒。
「ごくろうさま、大変ですねぇ」
「畑になるですか、いいですねぇ、きれいになりますね」
「ここって、前は畑だったんですよね?」
だもんで、
「はい、がんばってまーす!」
と、適当に相づちを打っているのだが、面倒臭いのが子供たち(笑)。
先頭の引率の大人が「こんにちわ!」と僕らに挨拶するものだから、それに続く子供たち全員(多い時は100人くらいいる)が、「こんにちわ、こんにちわ、こんにちわ、、、、」と、まるで永遠のように僕らに微笑みかけて来る。
まさか無視するのも大人げないので、しかたなく、いちいちそれに答えてやる。
つまり、全員が通過するまで仕事が中断する。
でもまあいいか、どうせすぐ疲れて休むんだから(笑)。
ところがどっこい、人間の身体というのはよくしたもので、野良仕事を一週間続けていたら、なんか体力が少しついちゃったらしくて、20分動いて5分休憩くらいのパターンに進化してきているではないか。

四日目に入ると、H君共々、まったく同じ作業の繰り返しにすっかり飽きてきてしまった。
だもんで、草刈りは一時中止して、見晴らしのよくなった一部を徹底的に整備し、とりあえず畑を作ってみようじゃないかということになった。
そのために、その日は小型の耕耘機をここまで持って来ている。
この畑までは車が通れないので、道の途中まで軽トラで運び、そこから森の小径の地面を掘らないように気をつけながら、H君が耕耘機を運転してきたのだ。
ちなみに、僕は原チャリでこの畑までやって来ることが出来ていたが、小径で人と遭遇すると、大抵の人は「え〜、こんな自然の中をバイクで走るのか、お前は!」みたいな、ちょっと軽蔑まじりの眼差しを向け、不承不承道を僕に譲るのであった。

さて本格的な畑作り。
最初に大雑把に刈り取った草や竹を集めて捨てるが、集め切れていない草木が全面を覆っていてまだ黒土は見えてこない。
そこで、熊手を使って黒土が顔を出すまできれいに取り払う。
すると、今まで見えていなかったが、草刈り機で刈り取った竹の下の部分が、地面から生えた刺のように無数に顔を出す。
それに竹だけでなく、芋の蔓のような何だか分からない根が、へびのようにウネウネと地面を這い回っており、それらも全て撤去しないと美しい畑にはならない。
H君は草刈り機を縦に使い、強引に地面に突き立て、刈るというより掘るようにして根っこをひとつひとつ排除して行く。そしてそれを僕が集めて捨てる。
嗚呼、気の遠くなる作業だこと(笑)。
ただ、この作業を続けていると、あっちこっちから小鳥が寄って来るのがちょっと面白い。
それは、ほじくり返した地面からミミズがいっぱい出て来るので、それを狙ってやって来る。
最初にやってきた10羽はムクドリ、そして次にやって来た5羽は通称尻叩きことセキレイ達だ。
彼らは僕らをあまり警戒することもなく、1mくらいのところまで近づいてくる。
そして、いつもその辺にいる二羽のカラス(いつもと同じカラスかどうかは不明)が羽音を立てて舞い降りると、あっと言う間に小鳥は退散し始める。
そんな様子を、高空からトンビが一羽、それこそ輪を描きながら眺めている。
でも、トンビは一度も降りて来たことはない。
ミミズなんて食べないのかもしれない(笑)。

そうやって二日目、ようやく10作(長さおよそ7m)ほどの畑が完成!
さっそく種をまく。
水菜、カラシナ、ちりめんちしゃ、うまい菜、早生サラダあかり、スプリングほうれん草、サニーレタス、時なし五寸ニンジン、、、etc。
H君は以前この畑が荒らされたことがあり、それはたぶんタヌキかなんかの仕業だろうと当たりをつけ網罠を仕掛けたところ、案の定、ハクビシンとアライグマが掛かったそうで、そのまま市役所に連絡して二匹とも引き取ってもらったことがあるという。
種植してから二日目の朝、整備した畝にくっきりと動物の足跡が、、、。
犬の散歩も多いが、まさか飼い主が畑を歩かせるはずもなく、やはりこれは野生の動物だろうと思われるが、荒らすにはまだちょっと早すぎるぜ。

これらの作物の収穫まではまだひと月以上かかるというが、残念ながらその報告はできない。
明日の天気予報は雨、久しぶりにパチンコ行こっと!

                             がぶんコラム、これにて終了バイバイ。