つい先日、小さなニュースとなって曽我野一美さんという方の訃報がメディアで流された。
85歳にして亡くなったこの人は元ハンセン病訴訟原告団代表だったのだが、さぞや大変な一生だったろうなという思いとともに、関連するいくつかの事柄がパラパラと頭に浮かび複雑にリンクし始めた。

自然界の生態系の成り立ちを解き明かしたダーウィンの進化論に罪はないけれど、その後、ダーウィンの従兄弟にあたるフランシス・ゴールトンなる人物が提唱した「優生学」っていうやつは危ない危ない、まさに諸刃の剣、その後の歴史に大いなる憂いをもたらす結果になったものだと。
強者VS弱者=優秀なものVS劣ったもの。
この優生学的思想に基づく構図が、後年のハイブリッド米の発明などに貢献したことは言うまでもないけれど、一方で、考え違いした政治家に利用された結果ナチスが生まれ、人類の歴史の汚点となるべき悲惨な出来事を引き起こしたことも事実。
それで人は懲りたのかと思ったらさにあらず、欧米諸国を始め日本も含め、戦後優生学はさらに発展し、その結果ロボトミー手術(犯罪者や言動がおかしくなった人などの脳の一部を加工し、暴れるやつをおとなしくさせたりする手術)なんていう、とんでもないものも流行らせたりする始末。
「えー、昔はそんな酷いことが行われていたのか!」と、今では信じられないような人権無視の話しだけれど、それもそれほど昔の話しでもないからさらに驚く。
日本における、ロボトミー手術に関する一番最近の裁判は、言わばついこないだ、1996年のことだ。

以下はWikipediaから引用
「1979年9月、元スポーツライターだったS(50歳)が、ロボトミー手術を受けたことで人間性を奪われたとして、執刀医の殺害と自殺を目論み医師の自宅に押し入った。医師の母親と妻を拘束し本人の帰宅を待つが、予想時刻を過ぎても帰宅しなかったことから2人を殺害し金品を奪って逃走する。池袋駅で職務質問した警察官に、銃刀法違反の現行犯で逮捕された。
1993年、東京地裁で無期懲役の判決が下るが、検察側・S側双方が控訴、1995年に東京高裁が控訴を棄却したため、S側が上告するも、1996年に最高裁で無期懲役が確定」

そして、優生学的思想は法律にまで及ぶ。
今では母体保護法といかにも優しげな名称に変わったが、かつてはモロに優生保護法という名称だった悪法。
その中でハンセン病患者はまるで人間扱されていなかったという悲しい歴史がある。
一般社会から隔離されるのはもちろん、患者同士のセックスまでが管理の下におかれ、男性は強制的に断種(パイプカット?)され、女性が妊娠した場合には強制的に堕胎させられる。それが合法だったのだからやりきれない。
おそらく先日亡くなった曽我野一美さんも、そういう辛い目にあってきたのだろうと推察する。
このハンセン病、かつては「らい病」といわれ、忌み嫌われてきたのはつとに有名。
知らない人はとりあえず松本清張の「砂の器」でも読めばよい。

僕は極楽寺に住んでいて、鎌倉時代のその昔、長谷の大仏通りあたりに「らい病棟」があったという歴史的事実を知った。
作ったのは極楽寺の開祖「忍性(通称良観というが、昔話に出てくるあの良寛様とは全くの別人)」。
この坊さんは「らい病棟」の他にも、今で言うホスピスの開設や、当時の非民や乞食たちに衣服や食物を与えるなど、大ボランティア活動を展開させた、当時では珍しく人権意識が高い偉い人、、、という認識のままずっとそう考えていたのだが、深く知るとそれがそうでもないからこれまた困った話しだ。
手広く社会奉仕活動を行ったのは事実だけれど、その裏で鎌倉幕府と手を組み、鎌倉から江ノ島までの漁業権を握りあがりをかすめ取ったり、関所を作って通行料をとることを許されたり、それはもうやりたい放題に儲けていた、、、と。
一方で、宗教的ライバルの日蓮にそのことを糾弾された上に、日蓮VS良観の雨乞い対決などもにも大敗し、日蓮を恨みに恨み、周囲の寺を仲間に引き入れ、今度は日蓮を追い出しに掛かったりもした。これは日蓮の法華経VS良観の真言律宗教+その他宗の対決でもあり、その結果、日蓮は大忙しの人生を送ることになる。
八丈島に流されやっと鎌倉に帰ってきたと思ったら再び捕まって、竜口寺で斬首になるところを超常現象?の不思議な発光体の出現に助けられ、危うく命拾いしたものの、今度は佐渡へ流されかと思うと、しつこいことに再び鎌倉に舞い戻り、なんとか布教しようと努力するが上手く行かず、結局自ら鎌倉を去って身延山へと、、、、あー、忙しい。

そして、ハンセン病で思い出すこと言えばカプコン(ゲーム会社)の『戦国BASARA3』問題。
これは2010年のニュースだった。
関ヶ原の合戦をテーマにした戦国武将たちが登場するゲームなのだが、その中の一人、西軍の武将大谷刑部(吉継)。
どんな映画でもドラマでも劇画でも、必ず白頭巾のようなももので顔全体を覆っているので知っている人も多いと思うが、かの裏切り者小早川秀秋に最初に狙われて命を落とすことになった悲運の武将でもある。
このゲームのキャラクター設定におけるプロフィールが最悪。
「重い病に侵されており、豊臣秀吉存命の時代より常に周囲から疎んじられてきた。己の身のみに降りかかった不幸を許容することができず、すべての人間を不幸に陥れることを目的に、天下分け目の戦を起こすため暗躍する」と書かれている。
この病いが当時のらい病であったことはほぼ歴史的事実として有名であったために、カプコンに対しハンセン病学会が要望書を突きつける、という事態にまで発展したのだ(ちなみに中世では不治の病をいっぱひとからげに「らい病」と称したらしいが)。
これに対しカプコンは謝罪し善処すると言いはしたが、結局したことと言えば、ゲームの公式サイトの大谷刑部のプロフィールの文言を手直ししただけで、その後発売されたゲームソフトそのものの内容では、どこも改善されておらず、案の定無責任な対応に終わった。
シラをきって金儲けだけを考えるという点では原発村の連中も同じ穴のムジナだけれど、こないだの週刊朝日の話しといい、このゲームソフトのスタッフといい、いったいいい大人が何を考えてどう判断して、最悪なるものを社会に出すのだろうか。
あーいやだいやだ。
もはや想像力の欠如などというものではない。単に無神経なバカヤローの集まりがこの国を作っているのか?
やっぱり、貧しくとも清く正しく、パチンコだけは勘弁してもらって生きて行こうと心に決める今日このごろであった。

高瀬がぶん