唇の端のところに口内炎だかなんだかできて、ヒビ割れみたいになった。
こうなると、喋る時とか何か食べる時とか、口を開く度に「痛ッ!」ってなるので、時々舌の先っちょで濡らして癒したりしていたのだが、これがいつまでたっても治る気配がないので、ついに頭に来て、思いっきり口を「あががっ!」って開けて、すご〜く痛くしてやったぞ。
という軽〜い自殺行為の話しはさておき。

故あって、今月始めから鎌倉の秘境にて突然百姓になりました(笑)。
場所は自然の森に囲まれた鎌倉中央公園のど真ん中の山の頂上。
そこに45年来の旧友H君の私有地が一反(300坪)ほどあるのだ。
周りはすべて公園なので、市としてはどうしてもそこを買い上げたかったらしいが、亡くなったH君のオヤジさんがどうしても売りたくないとその申し出を拒み、ならばせめて公園の指定だけは受けてくれと説得され、畑を作り続けていいのならと、結局公園内私有畑という形になったそうだ。
その畑はずっとオヤジさん一人で作っていたのだが、歳をとってくるにつれ作業も辛くなり、当時市内で学校の先生をやっていた長男のH君を口説き落とし、H君は思い切って定年前に教員を退職し、オヤジさんの畑仕事を手伝うようになったという次第。
それも、そんな昔の話しではないので、H君の百姓経験はまだ実質4年ほどの新米百姓ということになる。
そして、やがてオヤジさんも亡くなり、いよいよH君ひとりで百姓仕事をやらなければならなくなったわけだが、この畑の他に、中央公園内の里の方にもう一カ所畑(200坪ほど)があり、生半可な決心ではこなせないほどの大変な作業がH君の肩にのしかかってきたのである。
もっとも、オヤジさんの時代には収穫物を市場に出荷していたのだが、H君になってからは市場に出荷することもなく、収穫物はすべて家族や親戚やご近所に分けるだけ。
それでも余る野菜を無人置き野菜として軒先で100均で売ったりしてはいるが、それは肥料代にも満たないほどの収入にしかならないそうだ。
それでもH君の家は経済的に特に困る事はない旧家なので、畑で生計を立てる必要もなく、言わばのんびりした百姓ではある。
だからというわけではないが、この三年ほど畑は休耕していた。
とりあえずその現場を見に行こうと一緒に出掛けたのだが、いやぁ、自然の力ってすごいものだ。
三年間放っておくと、以前そこが畑だったという面影はすっかり消え去り、畑全面を森の緑が浸食し尽くし、ほぼ原生林のような状態になっている。
これでは農作業に入るためにはまず開墾が必要となる。
それは農作業というよりはむしろ林業の作業に近い。
そんなわけで、相変わらずヒマしているこの僕に声が掛かったという次第。
ただ、この僕にそんな仕事ができるか大いに疑問がある。
H君は言う。
「ねぇ、パチンコばっかりやってないでアルバイトしな〜い? リハビリにもなるよ(笑)」と。
確かに僕にはリハビリが必要かもしれない。
脳腫瘍の手術以降7年間、走ったこともなければ思い切り力を込めるという経験もないのだ。
っていうか、真夏の暑さ以外に汗をかいたこともないという体たらく。
この際、人生のリハビリをするつもりでやってみるか?
「おっ、いいよ〜! やるか百姓!」
なんて安請け合いしたものの、いざ現地に立つと、、、、。
このジャングルを二人のジジイ(64歳)で開墾するのかよ!
「おいH、なんでこんなになるまで三年間もほっといたんだよー!」
それは、、、言わずもがな原発事故の影響を考えたからだという。
そう言えば思い出した!
チェルノブイリの原発事故があった時に、僕らはかなりの危機感をもって事態を受け止め、東京の素粒子研究所から講師を招いて、H君の村の集会場みたいなところを借りて、友人15人程度を集めて放射性物質に関する講義をしてもらったことがあった。
あの時に、「もし日本で同じような事故が起きたら、、、」という前提で、素人なりに色々と思いを巡らせたものだが、案の定脳天気な僕は、いっこうに反原発の機運が高まらないのを見るや、さっさと諦め、、、「やっぱり夏は原発電気でエアコン効かすに限るな〜」などと、不謹慎なことを口にしたりしていたものだった。
それがまさか本当に原発事故が起きるとはね。
心の中では事態の深刻さを憂いてはいるものの、一方で「ほらみろ、言わんこっちゃないバーカ! やっぱりなやっぱりな!」と、どこかほくそ笑んでいる自分がいるのも確かだった。

H君はポータブルの放射性物質を測る線量計を持っており、福島原発の事故直後にすぐに畑を計測し、以前の倍以上の数値を示したため、しばらく畑を休耕にしたほうがよさそうだという結論に至り、現在まで放っておいたという次第であった。
今回、最初に現地に行った時にも計測してみたが、数カ所の平均で0.03マイクロシーベルト/h。
うん、これならまずは大丈夫という数値である。
ならば、開墾するっきゃねーだろ!
                                                                    次号につづく