母が入院して1週間。見舞いに行ったら姿が見えない。
部屋の奥を見ると、個人ごとの仕切りに使うカーテンの裾から、淡いオレンジ色のパジャマが見え、靴下から母と分かった。
自分のベッドを離れ、奥の人の所までしゃべりに行っていた。
調子が良くなったら、じっとしていられないらしい。

出血は子宮筋腫からだったらしく、処置をして今は問題なし。
婦人科医は「検査しましたが、他の病気もありませんでしたので、卒業です」と厳かにおっしゃった。
他の臓器の疾患もみつからず「これだけ検査して何も見つかりませんでしたから、大っじょ〜ぶ!」と主治医のK先生が親指と人差し指でOKサインをつくったと、母は嬉しそうに真似をした。

母は案外入院生活を楽しんでいた。
先生や看護師さんは優しいし、同じ病室の患者さんたちとは仲良くなった。
上げ膳据え膳だし、何より大病ではなかったのがいい。
「大腸の検査はこれきりでいいけど、他は楽に終わっちゃったッ」とケロッとしている。
最初は2週間も入院なんて嫌…と言ってたのに、自宅より居心地がよかったらしく、K先生から予定より早く退院出来そうだと聞いたら暗い顔になった。

…ら、その夜から手が3倍に腫れあがった。手のひらがカサカサで水泡ができ、グーパーが出来ない。
同じ病室の人も以前似た症状になり、乾燥が原因だったという。
母の場合は輸血をし、体の3分2は他人の血がはいっている。
弟が同僚から、大量輸血をすると体質の変わる人がいると聞いてきた。一時的に抵抗力が下がるためだという。
念のためこれを調べた内科では異常がなかったが、K先生が心配して皮膚科受診を手配して下った。

私達はまたこれを逆手にとることにした。
これでは家事は出来ない。退院後は腫れがひくまでゆっくり休まないといけない。
血が馴染むまで、大事をとらなければいけない!!
…ということを、弟や叔父、叔母、私が繰り返した。
新たな洗脳である。
しつこく言い続け、弟の家で私が食事を作ると説得したら、少しの間なら行くという。
つづく…。