今ここにきて、iPS細胞に世界の注目がこれほど集まっているのは、果たして、ノーベル賞受賞者の山中教授の功績なのか、はたまたiPS細胞を使って手術をしたと言い張っている森口尚史氏の功績なのか、最早分からなくなってきているわけだが、居心地悪そうなのは言うまでもなく森口尚史氏のほうであります(笑)。

10月12日、滞在先のニューヨールのホテルで、複数の記者たちに取り囲まれていた森口尚史氏。
この時点ではまだ「自分が言っていることは全て真実であり、iPS細胞を使用し6人の患者に手術を行ったことも事実である」というスタンスを崩していなかったので、それはまあ居心地が悪いなんてものじゃない。
その様子がYouTube動画でおよそ100分間ほぼノーカットで流されていたので、ついつい最後まで見てしまった。
質問者は男性二人と女性一人の三人(たぶん)の記者たち。ハッキリ言ってあれは拷問か公開処刑のようなものだった。
人が精神的に追いつめられて行くとどんなふうになるのか、ということがとてもよく分かる残酷な映像であった。

じーっと見続けることおよそ一時間半、実に不愉快であった(笑)。
なら見るなよ、とはごもっともだが、こんなリアリティ溢れる人間観察映像は滅多にお目にかかれないので、途中で見るのをやめる決心はつかなかった。
ものすごいドキュメンタリーである。
見ていて映画「一命」を思い出した。
竹光で無理矢理切腹させられる武士の話しだ。
じわりじわりと、、、早く介錯してやればいいのにと。
記者も「全部ウソだったと告白しちゃいなさいよ、そのほうが楽になれますよ!」
と優しさをもってズバリ切り込めばいいものを、非情にもまわりからぐちぐち攻めてひとつひとつのアリバイを目の前で崩していくのだから、森口氏にしてもたまったものではない。
「全部ウソですごめんなさーい!」
と自らをバッサリ切り捨てる機会をわざと奪っているのではないかと思えるほどだった。

言葉使いは正確ではないかもしれないが、そこでは、およそ以下のようなやりとりが交わされていた。
男性記者が「いまこの場でハーバード大学の担当者に電話しますので話して下さい。大学側は手術の承認を与えてないと言っているのですから」と言えば、「むにゃむにゃ、どうしてこんなことになるのか分からないんですよー」。
するとその傍らで女性記者が何やら英語で電話している様子。
しばらく喋った後に電話を切り、
「いま大学当局の方と直接電話でお話ししましたが、手術の承認を与えた事実は一切ないとはっきり言っていました」
と森口氏に告げるが明確な答えはない。
もっとも終始しどろもどろが基本の森口氏なので、記者たちも納得できようができまいが、質問の方向もすぐに変える。
矢継ぎ早の質問、しどろもどろの答え、、、ずーーーっとこの繰り返しだ。

記者「医師アシスタントの資格はどこの州でおとりになったんですか?」
森口氏「しどろもどろ、、、えー、マサチューセッツ州ですが」
数分後記者が言う。
「いまスタッフが役所の方に確かめたのですが、登録データには森口先生の名前はないと言ってるんですが」
森口氏「「むにゃむにゃ、どうしてこんなことになるのか分からないんですよー」。
ちなみにこの「どうして、、、」という台詞は、インタビュー全体を通し、たぶん10回以上発せられている。

記者「最初の手術が2月4日に行われたとおっしゃっているわけですが、ならばパスポートを拝見させていただけませんか?そうすれば少なくともその日に米国に滞在していたことだけでもハッキリするじゃないですか」
森口氏「むにゃむにゃ、お見せできません、プライバシーうんぬん、、、むにゃむにゃ」
そのやりとりがしつこく何度も続き、記者もいい加減嫌気がさしてきたのか、
「分かりました、これで最後にしましょう! パスポートを見せていただければこの会見を終わりにしてもいいです。それで、もしスタンプがあったら私はこの場で謝ります! もしなかったらその説明をしていただければけっこうです。そういうわけですので、お願いします! 是非パスポートを見せて下さい!」
森口氏「いや、お見せできません!」
この件に関しては森口氏最後まで頑張り通す。

こうして複数の疑問に対し、関係各者にリアルタイムで確認し本人の言を否定するというエグい攻撃が加えられるのだが、森口氏はほぼ明日のジョーのノーガード戦法のようにのらりくらりとそれをかわして行く。ま、厳密に言えば、かわしきれずに寝たふりを決め込む、、、みたいなものなのだが。

ところで根本的な疑問がひとつある。
果たして森口氏はウソをついているのだろうか?
僕は映像を見ていて必ずしもそうではないんじゃないか、実はそんな気もしていた。
ただしこの場合「自分にウソをついてはいない」という意味に限定される。
虚言症の嘘は、ウソであることを自覚しているので自分にもウソをついていることになるが、森口氏の場合はそうではないのではないかと。
まわりから見れば明らかなウソだけれど、本人にしてみれば真実の体験を話したまでのこと。
こんなことはたいして珍しくもない、よくあることだ。
勘違いなどとは違い、もっと確信的にそう思っている。
そういう人は世界に数万人という単位でいるだろう。
それですぐに思いつくのはアブダクターによる記憶の再構築だ。
「UFOにさらわれて手術されました、、、うんぬん」。
人から見れば明らかなウソだが本人は大まじめ。
自分の実体験の記憶として、脳にそう刻み込まれているから、本人の言葉にウソはない。

「ホントなんだってば、実際に体験したんだから」
「お前は自分の記憶としてそう信じ込んでいるらしいから別にウソを言っているわけじゃない。でもそれは真実ではないんだ」
というわけだ。
ウソと真実は必ずしも対局にあるわけではない、ということだ。
そういう人の多くは、こういう症状を呈する側頭葉あたりの脳の病気なのだから仕方がない。
翌日の会見では、事実でない部分が多々あることを認めた森口氏が、
「ウソと言えばウソをついたことになる」
とそう言ったのだが、これはひょっとして「自分では事実であると考えている。でも現実ではそうでないことになっているので結果ウソということになる」、という意味かもしれないと。

従って、森口氏はなんかの病気だろうと思う。
単なる嘘つきにしては、あまりにもボロがあり過ぎる。
調べりゃすぐにウソだとバレることを平気でいうのも変だ。
しかも世界を揺るがすほどの大ウソなのだから、もし確信的ウソつきであるなら、もっと用意周到にすべきだし、自分からメディア各社に積極的に取材を依頼するなら尚更のこと、自分の経歴や肩書き、手術を実行した日時と場所、それらのアリバイをきっちりとしておかなければならないだろう。

翌13日の会見では、関係各所から言っていることを全否定されても尚、「あの一例だけは本当に手術したのです」と言い張る心情を、単なるウソつきの中に見い出すことは難しいような気がする。
ウソを百回言っているうちに自分の中では真実になった、と理解することもできるが、少なくとも彼は「手術は確かにした」と、それだけは信じ込んでいて、それ以外の、事実と反するもろもろはすべて吹っ飛ばしてしまった(笑)、という可能性もあるのではないか。
「めんどくさいからマサチューセッツ総合病院と答えた」
「なんちゅう言い訳を!」と怒るのは分かるが、それは案外本当にめんどくさかったのかもしれない。
自分の口から出た100のウソに囲まれたひとつの真実。
「ほんとに手術はしたんだってば!」
、、、と彼は信じ込んでいる、、、。
そうでなければビルの屋上から飛び降りるか、本当に切腹せずにはいられないような気がする。


高瀬がぶん