みんなが手放しで喜んでいるところに、空気も読まず「でもさ~」と、一気にみんなの気分を盛り下げるヤツがよくいる。
ちなみに、僕はそういうヤツでよくひとに嫌がられるけれど(笑)、所詮コラムなんて「何かに文句をつける」が基本なので、今回もそれでいくことにする。

去る12月11日未明、ストックホルムにてノーベル賞授賞式が行われ、iPS細胞の開発で医学生理学賞を受賞した山中伸弥教授がスウェーデン国王からメダルと賞状を授与された。
山中教授は日本人としては19人目のノーベル賞受賞者ということだが、毎度のことながら、ノーベル賞授賞式のニュース映像を眺めていると、日本人として誇りに思われ、わけもなく嬉しかったりするものだ。
それはそれ、でも下世話な僕のこと、で、いったい今賞金はいくらもらえるんだ、、と!
今回はこの部門で二人共同受賞だったので、各部門ごとの賞金1億4千万円を折半っていうことになるのだろうが、それでも結構な額が貰える。そうなると他の部門の人たちの賞金も同額あるので、受賞者全員で一体いくらの賞金になるのかと調べてみると、ほぼ毎回10億円!
それを毎年、って、ノーベルさんの遺産なくなっちゃうんじゃないの? と他人ごとながら心配(笑)になってさらに調べてみると、ノーベル財団の貯蓄はほぼ500億円くらいなので、利回りや資産運用で増える分は考えないとしてもあと50年くらいはノーベル賞は存続することになってひと安心(笑)。もっとも運営者がドジ踏んで、資産運用で株や不動産につぎ込んで破産しちゃうかもしれない。「なくなったら終わり」、それは当然の理なので、貰えるひとはなるべく早く貰っておいたほうがいいと思う。
あるいは狙いを変えるという手もある。
まだあんまり有名じゃないけれど、ロシアのIT長者、ユーリ・ミルナー氏が今年の7月に創設したばかりの「基礎物理学賞」のほうが、賞金額に限って言うとすごい。
なんと賞金一人当たり300万ドル(約2億3千万円)。
初年度の今年は9人受賞しているので、賞金総額はざっと2700万ドル(約21億円)。
これだけでも結構な太っ腹だが、それも賞金だけの太っ腹ではない。
ノーベル賞は実験などで実証された理論でなくてはならない、というケチ臭い条件があるが、この「基礎物理学賞」は、実証されていなくてもよろしい。独創性のある仮説でもその対象とするというのだから更に太っ腹。あくまで「基礎」ということだから、そういうことになるのかも知れぬ。

実際、今年の受賞者の中には宇宙創世の「インフレーション理論」のアラン・グース氏や、宇宙の構造を解き明かすかもしれない「超ひも理論」のエドワード・ウィッテン氏らがいる。もちろんこれらはまだ仮説の段階の理論に過ぎない。それでも賞金あげちゃうというのが気持ちいいではないか。残念ながら今回、日本人受賞者は一人もいないけれど、アイデア一発で受賞できるかもしれないと思えば、これまで実りの少なかった研究にも一層力が入るというものだ。

とはいうものの、権威という点では明らかにノーベル賞のほうが格上。
もらった本人も誇らしげだが同国人としてもまさに鼻が高い。
ノーベル賞受賞そのものは無条件に誇り高き栄誉と言える。
でも、ノーベルなる人物はどうなのよ? という疑問がふつふつと湧いてくるから僕は自分がややこしい。

ノーベルの兄ルードヴィが死んだ時、ノーベル本人と勘違いして死亡記事を載せた新聞があるそうだが、その見出しには「死の商人、死す」と書かれていたという。
さらに本文のアルフレド・ノーベル博士の紹介文はこんなふうに書かれていた。

「可能な限りの最短時間で、かつてないほど大勢の人間を殺害する方法を発見し、富を築いた人物が昨日、死亡した」

言わずもがな、ノーベル賞の基金はほぼダイナマイトの発明で儲けたお金である。
イタリアの化学者、アスカニオ・ソブレロという人が初めて合成に成功した「ニトログリセリン」は、爆発効果は文句なかったが、あまりにも危険で誰も扱えなかったという。
それを加工し実用化したのがノーベルの「ダイナマイト」であった。ちなみにソブレロさんには相当の対価を払ってその使用権を譲ってもらったらしいので、その点は律儀。
でも、平和利用のダイナマイトだけでそんなに儲かるか?
そう、ノーベルはほぼ武器商人で大儲けした人物として名高いのである。
だから前述のような新聞記事になったのだ。
ここで考えなければならぬことがある。

「科学的発見や発明は価値判断に馴染まない」

その発見・発明された科学的成果に価値判断を加えるのは、科学者自身ではなく、様々な分野の人物の哲学である。
というふうに習ったような気がする、というか、本来そうあるべきだろうと思う。
だから僕には「科学哲学」という学問分野が今あるのはよく分からない(笑)。
簡単に言えばこういうことだ。
ノーベルはダイナマイトを発明した。
それを生産性向上のために鉱山の発掘現場で使うか、それとも、殺戮のための大砲の弾に使うか、その選択は科学ではなく哲学の問題であって、その利用結果の責任を、ダイナマイトの発明者であるノーベルに求めることは出来ない、ということ。
何も難しい話じゃない。
このことは常に言われていることだろう。
現在で言えば、核の平和利用と核兵器利用。
核をどう使うかはその人次第、結果がどうあれアインシュタインに責任はない。
いやいや厳密にいうと、広島・長崎に落とした原爆開発のマンハッタン計画に最初の頃はちょっと乗ったアインシュタインにも多少責任あるかもしれないが、すぐ降りたので一応責任なしということにしておきます(笑)。

その点、ノーベルはどうなのだろう?
純粋な科学者として、単に安全な爆発物である「ダイナマイト」を発明しただけなのか?
そうではない。開発段階のダイナマイトを自ら積極的にロシア軍に売り込もうとして失敗したり(危な過ぎるからダメと)、後に成功し、実際にクリミア戦争で大儲けしたりしている。その後もさらにアメリカ軍に売り込もうとするが、ある軍人から横やりが入り、仕方なく軍事に関するダイナマイトの権利は譲ってしまったものの、晩年になって、武器製造工場を買い取り、武器製造業に進出している。
その当時は既にダイナマイトによって巨万の富を築いているノーベルだったが、ちょうどその頃に持病の心臓病が悪化し、ノーベル賞設立に関する記述のある遺言状を書いたというから、皮肉と言えば皮肉である。
そして、病気治療に医師はニトロを勧めたが、彼はそれを断固として拒否したという。
そんなもん危なくて飲めるか! とでも思ったのであろうか?(笑)。

そして、現在もノーベルの名がついた会社はヨーロッパ各地にある。もちろん爆薬も作ってる。特にドイツのダイナマイト・ノーベル社(社名がモロ過ぎて笑える)は、対戦車兵器パンツァーファウスト3やケースレスライフル H&K G11用弾薬など、現在も兵器の開発・製造を行っているというから何をかいわんや、、、。
それでも存在する「ノーベル平和賞」!
それはノーベルが恋をして破れた彼女、別の男と結婚したその彼女が「武器を捨てよ!」などを著した平和主義者だったことから設けられた賞だと言われているというから、これも大いなる皮肉。
しかもしかも! 巡り巡って、1905年にその彼女(ベルタ・フォン・ズットナー)が、女性初のノーベル平和賞を受賞しているのだから面白過ぎる。
けど、「おいおい断れよ! そんな男のそんな金を、平和主義者のあんたがよく貰う気になったな!」と、100年ばかり遅まきながら一応ツッコンでおく。

とにかくみんな!
どうせノーベル賞なんて無理なんだからノーベル賞飴なめて我慢しようぜ!
ノーベル製菓の初代社長が湯川秀樹と友達だったので、単にノーベル賞に因んだ社名を付けただけというから、こっちの方はなんとまあ罪がないにもほどがある。

高瀬がぶん